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自分がどう動くとこが世の中を一番幸せにするのか、ということを考える

カンボジア・ジャパンハートの取り組みを通じて

· 海外,オピニオン

カンボジアに来ています。
首都プノンペン近郊で医療支援を行うジャパンハートで活躍する二人、進谷さん、野村さんにそれぞれの取り組みを教えてもらいました。

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ジャパンハートは小児外科医の吉岡秀人氏が立ち上げた国際NPO法人。
「医療の届かないところに医療を届ける」のコンセプトに基づき、貧困や医師不足に喘ぐ途上国(現在はミャンマー、カンボジア、ラオスの3カ国)、国内の僻地や離島、病気と闘うこどもたちのこころ、そして大規模災害支援の4つにフォーカスした活動を展開しています。

カンボジアでは、2つの医療センターを展開。チャリティで運営されています。
2016年05月に、ウドンの国立ポンネルー病院の隣接地にジャパンハート医療センターを開設。ポンネルー病院の機能を補完すべく活動を開始しましたが、小児の固形がんにカンボジア国内で対応できないという現状に対し、昨年7月にジャパンハートこども医療センターを新たに開設。手術や化学療法などの集学的治療に加え、家族支援などの包括的ケアを提供しています。

こども医療センターができるまでは、国内で治療できない小児固形がんの患者は、その都度、寄付を募り、海外で治療を受けさせていましたが、現在は、九州大学や大阪大学などの治療チームが定期的にセンターで手術を行い、専門医も常駐できる体制が整いました。


小児がんの生存率は、日本では70~80%と言われていますが、カンボジアでは10~20%。医療機関を受診できない、受診できたとしても適切な治療が受けられない、また経済的理由で治療を中断せざるを得ない子供たちが非常に多いそうです。
ちなみに隣国ミャンマーでも、年間2500人の小児がんの発生に対し、病院を受診できるのは20%、治療を完結できる子はほとんどいないそうです。

カンボジアでは、妊婦健診を一度も受けず、出産予定日も知らず、緊急受診して30分後に出産するケース、外傷を放置して壊疽になってからようやく受診につながるケースなど、医療へのアクセスの悪さが、健康リスクの大きな要因になっています。

その背景には、経済的課題や公的保険制度がないこと、医療資源そのものが不足していること、医療に対する国民の不信(ポルポト政権下での知識層の大量虐殺により医師が不在となり、十分な医学教育を提供しないまま医師を濫造してきたことなど)もあるそうです。
このような状況から、診断がついたとしても、継続して治療をすることが難しいケースも多いとのこと。

進谷医師のように外国からの医療専門職による直接支援は、医療資源が絶対的に不足している現段階においては極めて重要です。そして同時に、未来のカンボジアの医療の担い手の養成も非常に大切だと思いました。実際、ジャパンハートでは、医療専門職を養成するための取り組みも行っているとのこと。僕自身、すぐに途上国での直接医療支援はできませんが、このような根本的課題解決のためのお手伝いならすぐにでも取り組めると思いました。

また、カンボジアでは、国民の栄養や衛生に対する意識の低さも課題のようです。
もともと一人あたりの米の消費量が世界最高レベルのカンボジア。「栄養」という概念がないため、甘いもの、食べやすいものなど、糖質に偏重した食事を摂取してきた結果、肥満や生活習慣病が増加し始めています。一方で貧困による低栄養・餓死なども存在するとのこと。
また、都市部以外では冷蔵庫も普及しておらず、歯磨きなどの習慣のない地域も。受診患者の中には、膿瘍などの皮膚感染症の患者も多く、衛生管理も大きな課題です。


これも、ポルポト政権下の知識層粛清で多くの教師が殺され、学校教育の仕組みが中断してしまったことも大きく関係しているようです。多くが農業に従事し、貧困世帯の多いカンボジアでは、義務教育であるにも関わらず中学校に進学するのは50%、大学教育まで受けられるのはわずか1%。

そんな中、食事と栄養を通じて、カンボジアの未来に貢献しようと日本を飛び出したのが、調理師の野村さん。ジャパンハートに栄養管理部を立ち上げ、給食事業マネージャーとして、自ら給食施設の施設設計、資金調達、人材確保に奔走しています。

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抗がん剤治療を受けているこどもたちに、安全でおいしい食事を提供したい。入院患者やご家族、そして病院で働くスタッフたちを元気にしたい。そして、食事を通じて、栄養や衛生に対する意識を高めていきたい、日本とカンボジアの栄養業界との懸け橋になりたい、そんな熱い思いを着実に実現しつつあります。

ジャパンハートを立ち上げた吉岡氏の言葉です。

●施される人たちが、施す側に回れるように
●誰かが力になってくれるというのが大切、誰かが自分たちのために頑張ってくれているというのが大切
●自分がどう動くとこが世の中を一番幸せにするのか、ということを考える

これは医療介護のすべてにおいて共通する考え方だと思いました。
そして、このコンセプトに共感した多くの医療専門職たちが日本からカンボジア・ミャンマー・ラオスに渡り、活動しています。

制度の充実した日本の医療現場では、1%の改善のために、みんなが四苦八苦しています。しかし、伸びしろの大きいカンボジアは、日本の1%の改善の努力で、おそらく20%くらい改善できるような気がします。
また、異なる生活感を持ち、十分な医療設備や制度や経済力がないという前提で医療に取り組むことは、医療専門職としての真の実力を大きく高めることになるでしょう。

自分にできること、自分が本当にすべきことは何なのだろう。
二人の若者の行動力を目の前に、そんなことを考えさせられました。

この二人の話は、ぜひ一人でも多くの人と共有したいと強く思い、今年の5月末ごろに、日本(在宅医療カレッジ)で報告会を開催してもらおうと思っています。
また詳細が決まったらお知らせしたいと思います。