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アウトカムを設定することのアウトカムは何か?

· オピニオン,社会保障,QOLと尊厳

「介護の効果、報酬に反映 質高め、サービス効率化」
 

こんな記事が日経新聞に掲載されていた。
介護保険サービスを通じて、利用者の要介護度が改善している場合、その事業者に報酬が支払われるという内容だ。

 

成果(アウトカム)に応じてサービスを評価するという方向性は賛成だ。
しかし、もう少し議論を深める必要があるのではないだろうか。

ここをうやむやにしたまま進めると、超高齢社会日本の未来の地域のカタチを歪めて危険があるような気がする。

私が感じる課題は以下の3点。
 

①アウトカムをどのように定義するのか?
 

要介護度の改善はとてもわかりやすい指標だが、老化や病気の進行に伴い心身の機能は必ず低下する。もし、これを指標とするのであれば、その評価の対象を明確にすべきだし、その対象外の人たちに対する別の評価の指標も準備すべきだと思う。

 

機能回復が可能な人たちを見逃してはいけない。その人たちに適切な医療やケアが提供されていない現状も存在する。

しかし、いつか必ず弱って死んでいく、という人間のライフコースを考えたとき、この医療的指標がアウトカムとして適切なのは、「本来のその人のポテンシャルを下回った状態の人たち」に限られる。

 

低栄養+廃用症候群によるサルコペニア・フレイル、急性疾患による消耗、入院関連機能障害などは一定の効果があるだろう。
しかし、老衰に対するリハビリの効果は限定的。それは竹内理論実践施設の成果を見ても明らかだ。

その人の身体機能の低下が、老衰なのか低栄養+廃用症候群なのかをしっかりと見極め、それに応じた評価の指標を設定しないと、回復可能性の低い人たちに真面目にケアを提供している事業所が相対的に低評価になってしまう。

 

ケアの対象者は非常に多様である。
もし、要介護度の改善をアウトカムに採用するのであれば、要介護度の改善が期待できない群に対するアウトカムもきちんと設定すべきだ。
一律の評価指標を採用すべきでないと思う。

 

 

②アウトカムをもたらした「介入」をどう特定するのか?

 

たとえば、医療法人社団悠翔会では、在宅での看取り率や、在宅療養期間中の入院頻度・入院期間を、在宅医療のアウトカムとして設定している。

しかし、これらの指標は、在宅医が一人で努力しても改善しない。地域全体の在宅ケア力や病診連携を強化していかなければならない。地域のケアマネさん、訪問看護さん、そして病院の退院支援がシームレスにつながって初めて成果が得られる。

 

どんなに素晴らしい在宅医がいても、地域に24時間の訪問看護ステーションがなければ、やはり看取りは難しいし、地域の病床が余っていれば入院や病院死は増えるだろう。

これらは、特定の事業所のアウトカムというよりは、地域全体のアウトカム。だからこそ、僕らは地域づくりに力を入れてきたけれど、このアウトカムに特定のサービスがどう貢献したのかを定量化することは必ずしも容易ではない。

 

たとえば特養や特定施設のように単一事業者で包括的なケアが提供できる体制においては、成果の特定が容易だが、地域の場合は複数の事業者の協働の成果であることを念頭に置くべきではないだろうか。

 

 

③成果をどのようにフィードバックするのか?

 

●包括報酬はもともと成果報酬ではないのか?
たとえば小規模多機能型居宅介護支援事業所にように包括報酬の事業形態がある。
そもそも、その人の要介護度に応じて給付額が決まっている。その給付限界の中で効果的なケア(本人の残存機能の活用、地域資源の活用、高スキルの専門職)を行うことができれば、本当の意味での自立支援を実践できる事業者の「粗利」は相対的に大きくなる。
これはある意味、成果報酬だ。包括報酬の事業を増やしていくのは、1つの選択肢だと思う。

 

●施設基準・人員配置基準をフレキシブルにしてみては?
たとえば高いスキルの介護専門職がいる。有能なボランティアもいる。それならば、決められた人数の介護職がいなくても、それ以上の成果が出せるだろう。
アウトカムを指標にするというのであれば、それを出すために最適な人員配置や施設構造を工夫できる余地を認めたらいいのではないだろうか。これなら実力ある介護職が高収入を得ることもできる。

 

●地域全体で成果をシェアしては?
高齢者になっても、要介護度が高くても、医療介護だけに依存しないで生活ができる。そんなコミュニティに対しては、ソーシャルインパクトボンドの仕組みを活用して、地域全体に成果報酬をフィードバックしてはどうだろうか。
年齢や要介護度の分布から、必要とされる医療介護費の概算は出せる。どの程度、コミュニティの力でそれを節減されているのかが測定できたら、その分を地域にフィードバックする。
ボランティアが元気な地域、高齢者にフレンドリーな飲食店やサービスの多い地域、日ごろから健康づくりに積極的に取り組んでいる地域。これを補助金ではなく、成果報酬で支える仕組みができたら、地域住民や自治体の当事者意識を刺激することもできるような気がする。

 

 

いまの硬直的な介護保険の仕組みがよいとは思っていないけど、アウトカムをどう設定し、どう運用するのか。それによって、これから先10年、20年のこの国の地域のカタチが大きく左右されるような気がする。


介護だけでなく、福祉や雇用なども含めて、もう少し包括的な議論が必要だと感じる。

(佐々木 淳)