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高齢者の減薬をどう進めるか?

· オピニオン,在宅医療,多職種連携,QOLと尊厳,講演

高齢者の「減薬」をどう進めるか。

先日、飯田下伊那薬剤師会での講演で、一人の薬剤師さんから投げかけられた質問。いろんなところで同様の質問をされます。

正しいかどうかわからないけど、現時点での僕の考えをお伝えしました。
 

 

【1】減薬を目的化しない

 

目的は、より安全かつ効果的な治療の実現。
その手段として、薬物療法の調整が必要である。調整した結果、薬が減ることになった。これが順序としては正しいと思う。
「薬は5種類までって言われた。どれを切る?」みたいな考え方では本来の目的が失われる危険がある。
 

 

【2】医学的な正義を押し付けない

 

病気だから薬を飲まないといけない、というのと同様、こんな薬は飲んではいけない、というのもスタンスとしては望ましくない。
相手が、自分の病気や現在の状況、そしてこれからの経過をどう理解(解釈)しているのかによって、薬に対する考え方は変わってくる。
まずは、相手の価値フィルターを知ることが必要。無理にやめさせて相手を不安にさせたり、信頼関係を損ねたりしたら、本末転倒。

 

 

【3】正しい知識を家族みんなで共有する

 

家族も含め、薬物療法に対する知識を持つ。不安や疑問に対して応えるというスタイルが効果的な気がする。

 

(例)
・年齢とともに「異常」は増えてくるけれど、どこまでが病気で、どこからが老化なのだろうか。病気なら治療ができるかもしれないけど、老化の場合はどう考えればいいのだろうか。
・ずっと薬を飲んでいるけれど、なんのために治療しているのだろうか。いつまで治療する必要があるのだろうか。
・病状や身体機能は変化していくわけだから、当然、薬の量も調整しないといけないはずだけど、最初に出されたときのままで大丈夫なのだろうか。
・この具合の悪さは、薬の副作用という可能性はないだろうか。
・薬を減らしたり、やめたりすることで、不具合が生じることはないのだろうか。

キーパーソンとなる家族がポリファーマシーや処方カスケードを理解してくれると、減薬は進めやすい。
また、薬をやめることが「あきらめる」ことではないのだ、というメッセージは必要だと思う。

 

 

【4】減らしやすい薬で、まずは成功体験を積む

 

減らしてみたけど、大丈夫だった。逆に快適になった。そんな経験ができたら、減薬は比較的進めやすくなる。

 

・胃薬は多くの場合、1種類で大丈夫。
・降圧薬や高脂血症治療薬は効き過ぎの人が少なくない。減らすことで、より治療目標に近づく。
・痛み止めやめまいの薬など、臨時処方でスタートされたものは徐々に減らす(錠数減らす→頓服にする→中止)。この手の薬を長期に飲んでいる人は急にやめると不安を訴える。
・古典的目的で使用されている古典的な薬は飲みにくいものが多いので減薬の提案が歓迎されることも(ウルソや消化酵素剤など)。

 

 

【5】薬を減らすのではなく、飲む回数を減らすことを提案する

 

特に朝の薬が飲めない、とか、昼が余ることが多いなど、処方日数の調整を依頼されたタイミングで「服薬の回数が1日1回で済むように調整してみましょうか?」と提案してみる。
1日3回で飲み忘れがあるより、1日1回確実に飲めたほうが、治療としては確実ですよ。朝飲めないことが多いなら、昼でもいいんですよ。
こんな感じでお勧めすると、スムースに進むことも。

 

 

【6】薬を1つ足すときに、1つ減らす提案をする

 

もし、減薬を進めていくべき状況にあるのであれば、必要性の高い薬が1つ増えるタイミングで、必要性のもっとも低い薬を減らしてみる。
患者さんの意識は新しい症状にフォーカスされていて、相対的に抵抗が少なくなる。

 

 

【7】新しい薬を足す判断を慎重に

 

・そもそも治療の対象とすべき症状なのか?老化現象と薬物の有害事象の可能性についてはしっかり除外を。
・本人や家族は治療を望んでいるのか?それは適切な知識に基づく適切な判断か?
・治療によって、本人はよりよいQOLあるいはよりよい予後が得られるのか?
上記を考える。その場しのぎで出した薬で後々苦労することも。

 

 

みなさま、他に何かアイデアあるでしょうか。


あるいは、ちょっと違うぞ、というものがあれば、ご指摘ください。もしあれば共有していただけると嬉しいです。

講演にはたくさんの薬剤師さんが参加して下さっていて、みなさん真剣に話を聞いてくださいました。薬剤師さんが減薬でイニシアチブを取ってくれると、医師としては本当に心強いです。