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国民の権利としての「緩和ケア」

ドイツ医療介護視察報告②

· 在宅医療,多職種連携,海外

OUTLINE
●ドイツでは緩和ケアを受けることは法律上の「国民の権利」
●緩和ケアが必要な人を支える漏れのないセイフティネットワーク
●「その人にとっての最善の生活の質」という目的を共有したフラットな多職種連携
●緩和ケアに関わる費用はすべて無料(自己負担なし)

ドイツでは高齢者ケアも緩和ケアも在宅が基本。
在宅でのニーズに応じてさまざまなケアが提供される。在宅療養の継続が困難になった場合には、施設や病院が選択されるが、状況によっては再び在宅に戻る。
そして、最期まで「その人にとっての最善の生活の質」を確保するため、必要に応じてさまざまな形態の緩和ケアの選択が保証されている。

ここではドイツの緩和ケアの仕組みの全体像をご紹介したい。

■前提となるGP(家庭医)との信頼関係

ドイツでは(家庭医)が主治医としてその人のプライマリヘルスケアを担う(※州によって多少差がある)。
患者が在宅ケア(在宅療養支援)を必要する場合には、介護保険に基づく訪問看護介護サービスと連携しながら、GPが訪問診療を行う。形としては日本の在宅医療・介護と似ている。

ドイツでは国民の84%は病院で死にたくないと答えている。
そして94%がGP(家庭医)が人生の最終段階のケアを提供すること(あるいはケアに参加すること)を望んでいる。そして実際にGPは、在宅医療やホスピスケアにおいても主治医として関わりを続ける。


つまり、GPが国民から信頼され、在宅医療を含めて人生の最終段階まで支援できる(必要に応じて24時間対応できる)ということが基礎にある。

日本にはGPという仕組みはない。
また「かかりつけ医」の大部分は、在宅医療の提供や24時間対応ができていない。
在宅療養したいと意思表示があれば、場合によっては在宅医に主治医を引き継ぎ、そこから先の医療を確保できるが、そうでない場合には入院や入所を選択せざるを得ない。
これは、日本において人生の最終段階の支援を難しくしている1つの要因でもあると思う。

■重度別・三段階の在宅緩和ケア提供体制

通常、在宅ケアが必要な状態になったら、まずはGPが中心となり、介護保険による訪問看護・介護との連携で、在宅療養支援の体制を作る。ちなみにドイツでは介護保険は年齢に関係なく使える。
しかし一般的な訪問看護・介護では対応困難な在宅ケアが求められる場合には、GPの指示に基づき、AAPV(Allgemeine Ambulante Palliativversorgung:総合在宅緩和ケア)が24時間体制の在宅緩和ケア(看護・介護)を提供する。
AAPVでも対応困難な、より高度な緩和医療が求められる場合には、GPとの連携に基づき、SAPV(Spezialisierte Ambulante Palliativversorgung:専門的訪問緩和ケア)が24時間体制の在宅緩和ケア(緩和医療・看護・介護)を提供する。
そして保険サービスではカバーできないケア(日常生活面・社会心理面・そしてスピリチュアルケアなど)をボランティア組織(Ambulanter Hospizdienst:在宅ホスピス)が担う。

医療保険と介護保険を組み合わせながら、ケアが提供されるところは日本と似ているが、日本とは違い、緩和ケアの専門ニーズに関わる部分には自己負担は発生しない。
日本では40歳未満の若いがん患者など、高い医療費と自己負担割合、そして介護サービスが利用できないなど、さまざまな制約や高い費用が問題になるが、ドイツでは緩和ケアは国民の権利として保証されているため、自己負担はゼロ。

(1)一般的な介護保険サービス
通常の在宅療養支援・在宅看取りは、GPによる在宅医療と介護サービス(訪問看護・介護・通所など)で支える。そして、特別な在宅緩和ケアのニーズがなければ、そのまま在宅での看取りは可能である。
看護介護サービスは「ソーシャルステーション」と呼ばれる拠点から提供される。
ケアマネがいないという点を除けば、日本の介護保険の訪問看護・訪問介護と基本的には同じ。

(2)AAPV(Allgemeine Ambulante Palliativversorgung:総合在宅緩和ケア)
通常の在宅医療・介護では、カバーしきれない緩和ケアニーズに対して準備されているのがAAPVという訪問看護・介護サービス。緩和ケアの専門性を持つ看護介護専門職が複数在籍し、患者や家族の苦痛や不安に対して、24時間対応する。
日本でいえば、緩和ケアに強みを持つ機能強化型訪問看護ステーションという感じか。

(3)SAPV(Spezialisierte Ambulante Palliativversorgung:専門的訪問緩和ケア)
病気や治療に伴う苦痛が大きく、AAPVでも対応できない高度な緩和医療ニーズに対して、SAPVという在宅緩和ケアチームが対応できる。複数の緩和ケア専門医を中心に、緩和ケア専門看護師やソーシャルワーカーなどによる多職種のチームが、家庭医と連携しながら在宅での緩和ケアの提供にあたる。
日本でいえば、在宅緩和ケア充実診療所加算を算定している大規模な機能強化型在宅療養支援診療所というイメージ。

(4)在宅ホスピス(Ambulanter Hospizdienst)
在宅ホスピスと聞くと、専門職による在宅緩和ケアを連想するかもしれない。しかし、ドイツでは教育されたボランティアによる人生の最終段階の援助のことを指す。
専門職のケアではカバーできない日常生活上の支援、そして社会心理面のケア、スピリチュアルケアのニーズも存在する。そこをカバーするのが「在宅ホスピス」と呼ばれるボンラティア組織。100時間の研修を受けたボンラティアたちが、医療、看護介護の専門職と連携しながら、専門的ケア以外の生活ニーズ全般に幅広く対応する。
「傾聴ボランティア」などの一部を除き、日本にこれに相当する仕組みとしての組織はおそらく存在しない。

■在宅での緩和ケアが難しくなった場合・・
 

一般的な老人ホーム(ナーシングホーム)と入所型ホスピス、そして緩和ケア病棟の3つの選択肢がある。

(5)一般的な老人ホーム(ナーシングホーム)や高齢者向けの住まい
緩和ケアというよりも長期的ケア(介護)が主たるニーズの人は、通常、入所型ホスピスや緩和ケア病棟ではなく、一般的な老人ホームや高齢者向けのすまいに入居する。老人ホーム以外の高齢者向けのすまいもあるが、多くは要介護度の高いケースには対応が難しいという現状もある。
※ここは自己負担が発生する。

(6)入所型ホスピス
通常の介護に加え、社会心理的ケア、スピリチュアルケアのニーズが高いケースでは、入所型ホスピスが選択される。
入所型ホスピスでは、病気を治療するのではなく、症状を緩和することを目的としたケアが行われる。緩和ケアに専門性を持つ看護・介護職が中心となり、その人にとっての「最善の生活の質」を実現すべく、内外の多職種が連携してケアにあたる。入所期間は平均50日程度。ちなみに入所型ホスピスに医師の配置はなく、医療ニーズにはGPの訪問診療で対応する。

(7)緩和ケア病棟
緩和ケア病棟では、入所型ホスピスでは対応困難な身体的症状(疼痛や呼吸苦)に対する緩和医療ニーズの高いケースを中心に受け入れる。入院期間は平均10日程度。大部分が亡くなるが、症状が緩和され退院できる人もいる。
予後の見通しが厳しく、高度の緩和ケアの継続が必要であれば入所型ホスピスへ、状況が安定し在宅で対応可能であれば在宅復帰が選択できる。
ドイツには2000の病院があるが、うち300(15%)に緩和ケア病棟が整備されている。在宅緩和ケア、入所型ホスピスなど、その他の受け皿が多いこともあり、日本のような「待機」はあまりない。

■一般病院における緩和ケア

緩和ケア病棟を持たない一般病院に入院している場合、日本では十分な緩和ケアが提供されないことが多い。
しかしドイツでは、緩和ケア病棟を持たない病院の多くが、院内に「緩和ケアチーム」(緩和ケアを専門とする医師・看護師・多職種によって構成)を設置し、全科横断型に入院患者に介入できる仕組みになっている。
これは法令上の施設基準という
わけではないが、「ホスピス・緩和ケア法」※下記参照の創設後、病院で十分な緩和ケアが提供できないことが社会的に容認されない状況となってきている。

■市民運動で勝ち取ってきた「緩和ケア」の権利
 

このように、ドイツでは、在宅療養中でも、入院中でも、「すべての国民にとって緩和ケアは権利である」という認識に基づき、必要な人には確実に緩和ケアが提供できる仕組みが作られている(地域によっては、現在それを目指して構築中)。
ドイツはヨーロッパの中では在宅看取り率がそこまで高くない(約7割が病院死)が、例えば、今回訪問したケルン市では、在宅緩和ケアの体制の充実で、ここ7年で在宅死率が10%上昇したという。

なぜ、充実した緩和ケアの提供体制を作ることができたのか。

その根拠になるのが段階的な法律の整備。
社会法典の段階的な改正により、2001年に「在宅ホスピス」の請求権、2007年にSAPV(専門的訪問緩和ケアチーム)の請求権が認められた。
しかし、病院での終末期医療の現状に対する疑問が市民、医療者の間で広がり、2008年、少数の市民団体により緩和ケアの充実を求める憲章が作られた。彼らは8年に及ぶ市民運動を通じて賛同者を増やし、多くの団体に署名させ、政治的なレベルでの議論に発展した。そして2015年、作られたのが「ホスピス・緩和ケア法」だ。
この法律は、特に緩和ケアに関する財政面に大きな影響を与え、医療機関やサービス事業者は、より少ないコスト負担で緩和ケアを提供できるようになった。

ドイツでは、緩和ケアという「権利」を、市民と医療者が自ら行動して勝ち取ってきた。
政府から与えられるのを待つだけでは、現場の厳しい状況は変わらないのかもしれない。
 

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