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【記事掲載】施設在宅医療を科学する

· 在宅医療,メディア,施設,多職種連携

施設在宅医療にはネガティブなイメージが伴います。

軽症者が多くてつまらない、家族との意思疎通が難しい、施設の方針に左右される、積極的に施設での療養生活を選択しなかった人たちへの対応が悩ましいなど、イメージしていた「在宅医療」とのギャップに違和感を持つ在宅医も多いと思います。

しかし私は施設在宅医療にとてもやりがいを感じています。
その理由は大きく2つあります。

1つは多職種連携が効果的で、その成果を可視化しやすいこと。
施設の場合、関係する多職種のチームメンバー(施設看護師・介護リーダー・訪問薬剤師など)が固定されており、患家ごとにチームメンバーの異なる居宅在宅医療に比べて、一度、しっかりとした信頼関係と最適な役割分担に基づく協働体制が確立できれば、非常に効果的なチームケアが提供できます。また、その成果は、薬物療法の適正化(1人あたりの平均処方薬剤数)や看取り率・入居者の延べ入院日数などの具体的な数字になって現れる。その結果を見ながら、PDCAのサイクルを回すことができます。

もう1つは、効率的な診療ができるということ。
施設には多数の高齢者が集住しています。当然のことながら、居宅の在宅医療に比べて、時間あたりより多くの患者さんの診察ができます。診療報酬は居宅の3分の1くらいですが、診療効率を考慮すれば妥当と言えるかもしれません。施設側から限られた時間内に診療を終了するよう要請される、一人ひとりに十分な診療時間を確保できない、などの意見もありますが、施設に常駐している多職種としっかりと連携できれば、そこは最適な役割分担で診療の質を担保することができるはずです。

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そこで生活をしている人たちがいる限り、在宅医療にはその人たちの生活をよりよいものにするために努力する義務があります。そして多死時代を迎えた現在、施設には単なる暮らしの場としてだけでなく、終の棲家としての役割も求められています。

「施設」が入居者にとって安心して生活できる、そして納得して最期まで暮らし続けられる「すまい」として機能していくためにも、在宅医療は入居者に対する一方通行の医療提供のみならず、施設運営者や多職種と目的を共有し、課題解決のためにともに取り組んでいく必要があると思います。

そんな「施設在宅医療」のあるべき姿を、施設在宅医療に積極的に取り組む在宅医側、そして在宅医とともによりよい療養支援環境を実現しようとする施設運営者・施設の多職種の視点から総合的に考えてみたいと考え、企画させていただいたのが、今回の在宅新療0-100。

学研ココファンホールディングスの小早川 仁 (Hitoshi Kobayakawa)社長には、対談を通じて施設というフィールドで医療と介護がともに目指すべきゴールについて、厚労省老健局の西嶋康浩さんには施設における医療ニーズと施設在宅医療の方向性について明示していただきました。
また株式会社生活科学運営の茶山道史さんには特定施設の運営者の視点から、株式会社シルバーウッドの下河原 忠道 (Tadamichi Shimogawara)社長と本間佑介さんにはサービス付き高齢者向け住宅の立場から、社会福祉法人足立邦栄会の新井 五輪子 (Iwako Arai)理事長には特別養護老人ホームの地域における役割と在宅医療機関との関係性について、宮崎で「かあさんの家」を運営するNPO法人ホームホスピス宮崎、市原 美穂 (市原美穂)理事長にはホームホスピスのパイオニアとしての立場から、それぞれの現場での医療との連携、在宅医療に求めるものをご示唆いただきました。いずれもそれぞれの領域で先進的に取り組みを進め、圧倒的な成果を上げている方々ばかり、その深い考察には頷くばかりです。
加えて、在宅医療における豊富な実践経験を持つ株式会社龍生堂本店の豊田 義貞 (義貞豊田)さんには訪問薬剤師として、医療法人社団若葉会の三幣 利克 (Toshikatsu Minusa)理事長からは訪問歯科医師として、それぞれ施設在宅医療における協働のあり方についての提言を。そして、施設在宅医療にも積極的に取り組み、豊富な経験を持つ医療法人コムニカの足立 大樹 (Daiki Adachi)理事長、医療法人おひさま会の山口 高秀 (Takahide Yamaguchi)理事長には、それぞれの現場での取り組みと課題を共有していただきました。

大変ご多忙な中、共著いただいた皆様には心からの感謝を申し上げます。

施設在宅医療への見方が変わる、読み応えのある1冊になっているはずです。
ぜひ手に取っていただけたらと思います。

貴重な機会を頂戴しましたへるす出版の関係者の皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。